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2005.08.28

日本沈没(続)

地学の覚え書き その3
 プレート・テクトニクスによって,地質学の知識が塗り替えられた,といったが,正確にはそれまでの地質構造や岩石学的記載が間違っていたわけではなく,その地層と地質構造への解釈のしかたが変わったというべきである。まず,地層の年代が地層に含まれる岩石の年代(たい積した時期)と地層が形成された年代に食い違いがあることが当然に示されるようになった。日本の陸地をつくっている地層は,その場にたい積したり,隆起したりしたのではなく,どこか遠く離れた浅海底や,あるいは深海にたい積したものがプレートの上にのって,はるばる運ばれ,海溝で沈み込みむ際に,こそげ取られるようにくっついてできた(付加体という)ものだったのである。さらに,背弧海盆といって沈み込み帯には,大陸側に沈降域が広がる性質があり,およそ1500万年前に日本は大陸縁辺から切り離れて,日本海ができると同時に現在のような弧状列島となったことも分かってきた。そこにある地層や堆積物が,いつ?,だけでなく,どこから動いてきたか,ということが問題にされるようになったのである。
 日本列島がこんなに激しい変動帯にあり,頻繁に災害をもたらす地震の原因がこれらの地殻変動のひとつひとつにつながっていると認識している人はどれくらいいるだろうか。確かに一般の人にとって,地質学的な時間の長さや地層のありさまなど,普段の意識の外にあることがらだろう。しかし,安定した大陸の地質に精通した諸外国の地質学者は,日本のぐしゃぐしゃに変形した地層を観察して驚嘆の声を上げるという話を聞くと,自分たちの国土に対する大いなる関心事としなくてはならないのではないかという気がする。なにしろ,今後100万年以内に「日本沈没」がはじまるというのである。100万年は地質学的には,ほんの一瞬ともいえる時間なのだが。
 さて,その「日本沈没」のシナリオであるが,日本付近のプレートの運動とその境界について理解してもらえば,フツーの人でも分かると思う(図)
Photo_2

 プレート境界があるだけでも大変なのに,日本付近のそれは,太平洋プレートとフィリピン海プレートという2枚の海洋プレートが沈み込んでいる。西南日本ではフィリピン海プレートが北西の方向に,東北日本には日本海溝で太平洋プレートが西向きに,である。この2枚のプレートは,日本海溝に続く,伊豆小笠原海溝を境にしているが,ここではフィリピン海プレートに太平洋プレートが沈み込んでいる。フィリピン海プレートに比べ,太平洋プレートの方が遙かに遠い東太平洋海嶺でずっと古い時代に生まれ,冷え切っているために堅く厚い。房総半島沖の,太平洋プレート,フィリピン海プレート,そして日本列島をのせるユーラシアプレートの3つのプレート境界が接しているところを3重会合点(沈み込み境界型のトリプルジャンクション,TTT3重会合点)という。はたして,この3重会合点ではどのようなことが起こるだろうか,というのが着眼点になる。
 フィリピン海プレートは,伊豆半島,伊豆七島,小笠原諸島と高まりをもった列(伊豆・小笠原弧)にほぼ平行に北北西ないし北西方向に進んでいる。伊豆半島は,もともとプレート上の高まりが本州に衝突して付加したものである。一方の,太平洋プレートも東から西へ進んで日本海溝で折れ曲がり,沈み込んでいる。このとき,太平洋プレートが沈み込む日本海溝の位置は動かないと考えられる。もしそうだとすれば,日本海溝に続く伊豆小笠原海溝には,図の斜線で示したような部分が,フィリピン海プレートの西向き成分の運動によって「隙間」が生じるはずである。しかし,実際には伊豆小笠原海溝は,3重会合点で日本海溝と直線的に一応連続して隙間はないように見える。これは,日本海溝が,伊豆小笠原海溝の隙間を生じないように,プレートが沈み込むだけでなく,西に動いている,と考えるしかない(その他「隙間」を生じないためには,太平洋プレートに3重会合点で断裂が生じるか,フィリピン海プレートが日本海溝と平行に北に進んでいればよいのだが)。日本海溝の位置が実際に,少しずつ西に移動しているということは,東北日本のユーラシアプレートは,東西方向に圧縮され変形せざるを得ないことになる。この東西圧縮応力は,従来,単純に太平洋プレートの沈み込みに伴うもの,と説明されていたと思うのだが,高橋さんのモデルは三重会合点の安定性に注目したものであり,東日本の日本海側の活構造や地震の発生をよりよく説明できる。
 実は,このモデルについて,今年3月に行われた,第四紀学会のシンポジウムで高橋さんの発表として聞き,その後の巡検でもたまたまバスの席が隣になって,質問しつつ伺うことができたので大変印象深く興味を持ったのである。現在,日本列島に働いている圧縮応力場は,各地で被害地震をもたらしたり,第四紀(過去200万年)の活発な地殻変動をもたらしている。それがはじまったのは,多くの地質学的研究から,せいぜい数百万年前であろうと推定されていた。このモデルと房総半島などの地質学的証拠によるとそれは約300万年前であるという。しかし,それもしばらくの間のことで,将来,伊豆小笠原弧がリフト(マントルから熱を受けて融けブレイクする)すなわち,海嶺のようになることで,フィリピン海プレートの「隙間」問題は終焉を迎え,それにともなって東西圧縮力が消失すると,東北日本は沈降し,海中に没するのだという。それが100万年以内に起こるであろう,というのがこの「日本沈没」のシナリオである。
 日本の景観を特徴づける,細かいひだに分けられた山地やそれらにはさまれた盆地,きわめて大きな隆起速度によって形成された日本アルプスとそれを隔てる谷や平野,これらの地質構造には共通して,かつて地溝(伸張力によって陥没した地形)をつくっていた場所が一転して圧縮力を受け,逆向きの断層運動を開始したような構造(ハーフグラーベン(半地溝)とインバージョン・テクトニクス)が見られる(例えば,糸魚川-静岡構造線と北アルプス)。これらをとてもよく説明するモデルだということが,今後広く紹介されていくと思い,また,地球というものの見方や地質学の方法を一般の人々に喧伝するよい機会となると考えてこの文章を書いてみました。正確な解釈を欠いている部分もあるかもしれませんが,その点は高橋さんのホームページを参照してください。

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