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2005.12.28

養老孟司「無思想の発見」ちくま新書

 実は,私は養老教の敬虔な信徒である。今では日本を代表する知識人となっている養老さんの一般書で,私がはじめて出会ったのは「唯脳論」(青土社)1989年であった。どうやってこの本にたどり着いたのかは忘れてしまったが,以来対談集などをのぞいて,養老さんのほとんどの著作は買って読んで,本棚のもっとも目立つところに並べてある。90年代のいつだったか,NHK教育テレビの「人間大学」という教養講座番組で放送された「ヒトはいつから人か」というシリーズもすべてビデオに撮って持っている。この番組で養老さんがよく使うフレーズに「みなさんはあまりこういうことはお考えになったことはないでしょうが‥」というのがあって,気に入って,マネして言っていたこともある。
   「説明しなきゃ,わかんないじゃないか」と叱られる時代なのである。だから私は「説明すりゃ,わかるのかよ」という『バカの壁』という本を書いた。(無思想の発見p148)
 いずれにしても,この「おまえら考えてみたことあるのかよ」といいたくなる気持ちに,理科系の目や耳の発達した人間として,今日まで痛いほどに共感してきたのである。
 この本では,冒頭から近代的自我という問題が今までよりとてもよく整理されてる,と思う。なぜ日本には思想と呼べるものがないのか。なぜ日本人は無宗教で平気でいられるのか。諸外国に対し自信を持って相手と議論し,自分の主張をはっきりさせないでいられるのか。それは,日本語を話しているからだ,と。この日本語の特性と,民族的性格については,司馬遼太郎もすでに指摘している(「以上,無用のことながら」文春文庫)。では言語とは何か,という話になるが,養老さんは,以前から言語とヒトの脳の特殊性を指摘してきた。こういった,そもそも人間とは,とか歴史とは,とかいった面倒な問題を考えられるのはヒトの脳の特徴だが,そこから正義だの聖戦だの歴史認識だのが出てくる,というなら問題は脳のはたらきに関係するに決まっている。その単純な方法論が分からないという人が多いのも脳の性格にある,ので弱ってしまうが。
 「みなさんはあまりこういうことはお考えになったことはないでしょうが」の一言を受け入れられる人なら分かるはずなのですがね。

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