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2006.10.27

自然との対話

 人とのコミュニケーションは苦手である。本音を言ってもどうせ理解してもらえないという気がある。自然など物言わぬものと思っている人が普通だろうが,私には自然から受けとる様々感触を味わうほうがよほど面白い。というかそういう能力には自信がある。寒いとか暑いというだけでもなんだか嬉しい。雨,風なんかもいい。それらが実存的に「ある」という思いが強い。
 こういうのは,もっぱら山での体験がものをいっていると思う。山などに登って何が楽しいのかという人が圧倒的だろうが,空調の効いたビルのオフィスの窓から都会の景色を眺めるのと,寒風吹きすさぶ山の稜線で雨に打たれながら歯を食いしばるのと,どちらの五感がとぎすまされるかを想像してもらえばいい。リアルは自然から受けるもだと思う。またまた,養老教である。
 10月8,9日に北アルプスの烏帽子岳に行ってきた。3000m近い高山域が秋の紅葉の盛りとなる時期のはずだが,台風まがいの巨大な低気圧の猛威で海山での遭難が相次いだときである。登山口までのタクシーの運転手も時季はずれの悪天候で客足が遠のいていることを嘆き,これから登る私のことを心配してくれた。
 実際,上の方は雪になっているはずで冬山の装備までは用意していなかったから無理なら引き返そうと考え,帰りのタクシーの最終の時間を聞いたくらいだった。ただ,そもそも気温観測データの回収が目的で,この尾根に温度センサーとデータロガーを3年前から設置しているのである。ここを登るのはもう4回目になるので多少トレースがなくても迷ったりする不安はなかった。1500mくらいぱらぱらと雪になり稜線付近は20cm以上の積雪だった。ゴアテックスの雨具とスパッツ,ウールの帽子,オーバーミトン,スキーのストックという装備で寒さも足下もさほど危険を感じることはなかった。小屋にたどり着くと連休にもかかわらず登山客はがら空きの状態だった。この天気なら無理もない。2食付きでの泊まり客は私一人であった。 
 2500mまで,半日のうちに登ると,近頃は高山病気味になる。それでも缶ビール2本と焼酎1カップでほろ酔い加減になって寝た。夜中に頭が痛くて何度か目が覚めたが,風も治まり天気は回復しているようだった。朝寝起きばなに小屋の人から「天気が良いので,早めにご飯を用意しました」といわれ,外に出るとオリオン座が見え,満月を過ぎた月明かりのなかに白い山並みが浮かび上がっていた。用意された朝食をいただいてから,稜線からの日の出とすばらしいモルゲンロートの雪景色を堪能することができた。
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 新雪なので,滑るようなことはなく,烏帽子岳の見えるところまで行くと,後立山の峰々まで眺められる。小屋の主人から,「良いときに来ましたね」と言われ気分は上々,お礼を言って7時半過ぎ,そろそろと下山し,データロガーの回収をはじめた。気温は0℃をやや上回るくらいで,正直寒かったが,快晴なのでどんどん気温が上がる。一休みのできる,たこ足のような大きなダケカンバのある場所で,携帯で家に電話をしていると,昨日木に着雪した氷が一斉に融けてバラバラと落ち降り始め,痛いやら可笑しいやら。こんなことも,この場所のこの瞬間にしか経験できないことだということを書きたかったのである。
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