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2014.07.07

生物の大量絶滅と人類滅亡 (映画「ノア」を見て)

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近年の地質学的世界観には,いわゆる過去5回の大量絶滅,その一つが有名な隕石衝突による恐竜の絶滅で,同様に人類をも滅ぼしかねないような地球環境の大変動,すなわち「天変地異」が織り込み済みである。その昔「天変地異」または「激変説」は,化石のような絶滅種の存在理由を,聖書の記述(ノアの洪水)と整合性をしめすのに都合のよい考え方として受け入れられた。当時キュビエという比較解剖学の権威がもっぱらその態度をとった。ダーウィンの進化の考えが現れるしばらく前のことである。

地質学の基本概念に「現在は過去を解く鍵」というのがある。長い間地表の様子は過去にさかのぼっても同じ物理化学状態が保たれており,地層に残されたさまざまな痕跡は現在の地球上で生じている現象を外挿すれば解読可能だ,という考え方だ。これを「斉一説」という。「斉一説」に対し「天変地異説」はガラガラポンで,過去とのつながりを断ち切ってしまうから,何でもありの議論になって,それでは連続性のある歴史を編むことができない。そこで,地質学は,ハットンやライエルといった人たちが「斉一説」を採ることからはじまったという経緯がある。これを教条としたライエルの「地質学原理」を読んだダーウィンが進化論を唱えることになる。つまり一旦,地質学からノアの洪水や「天変地異」は否定されることになる。

なにやら,七面倒くさい話を始めてしまったが,映画「ノア」を見てきて,まとめてみたくなった。ノアの評などについてはいろんなブログなどを参考にしていただきたいが,この映画では,いろいろ聖書の記述ともちがったラッセル・クロウ演じるノアが「洪水によって人類は滅ぼさられなければならない」という使命を全うしようとする。聖書では,箱船に乗る人間はノアとその妻,息子のハムとセムとヤフェトのそれぞれ妻の計8人なのだそうだが,それを無視して,大嵐が収まってからも人間だけは配偶できないように,というノアと,そんなのいやだという息子たちの青春との葛藤をえがいたお話なのである。で,他の動物たちは,皆つがいで無数の鳥,ほ乳類,それから,爬虫類や昆虫までぞわーっと乗り込んでくる。このシーンは圧巻で荒唐無稽で面白かったけれど,生態学的に考えてみれば,他の生物が根絶やしになった世界で,種のたった一つがいが生き残ったとしても,増殖できるものではないとあらためて思わされた。だから,これはもともとたとえ話,メタファー(暗喩)として考えるべきなのだ(以前はノアの洪水で残った生物が今も変わらず存在するという原理主義にたいして,パンダやコアラも乗せたのか?と聞きたくなったものだが)。

さて,実際に起こった大量絶滅という過去5回の「天変地異」だが,中生代の終わりの6550万年前の隕石衝突,古生代の終わりの2億5000万年前の大陸分裂にともなう火山活動と海洋無酸素事件などはその原因もほぼ確定している。その他でも,9割近い生物が一度に絶滅したことは確かで,近くの恒星のガンマー線バーストによって,大気中に放射線が降りそそいだことが原因などとも言われている。だから,暗喩だとしてもノアの洪水のような天変地異は起こりうるんだよ。というメッセージは間違っていないどころか正しいのである。約7万年前のインドネシア,トバ火山の破局的噴火で,ホモサピエンスは一度絶滅に瀕したことがあるという説すらある。

そして,原罪というテーマの普遍性も無視できない。人間(ヒト)はいつから自己保存のために同族(ヒト)同士が戦い,殺戮を犯す攻撃性を身につけたのだろうか。こう書くと宗教者みたいかもしれないが,現実的な問題として,核開発や原発,廃棄物汚染,たえない紛争やテロなどジェノサイドや難民が発生する要因を人類がいまだに作り続けていること。さらに,人口爆発とエネルギー食糧問題もふくめて将来どうなるのか。引き金となるような火山噴火や太陽活動の異変によって,急激な寒冷化などの気候変動でいつでも大量絶滅(破滅的連鎖)が起こる可能性はある。ダーレン・アロノフスキー監督の「ノア」にこういったメッセージを私は見てしまった(しかし,全世界洪水というのは地球システム論的にはありえない,地球上の水の量は限られており,数千mを越える海面上昇は無理だ→参考=海の水を玉にすると)。考えてみれば,最後の人類(あるいは滅亡後の人類)を想定して描かれるスペクタクル(SF・パニック)映画は数え切れないほどあるのではなかろうか。

そして,はじめから映画の風景に引きつけられた。舞台となっている荒野の風景が中東の砂漠ではなく,緑のマット植物におおわれたツンドラおよび黒い玄武岩質の,曇り空で寒そうな荒原なのである(古代のわりに衣装がなんとなく現代的)。これは絶対アイスランドだと思った。見終わってパンフレットを買ってロケ地を確認すると当たりだった。以前その名も「アースウォッチ」という団体のアイスランドでのボランティア活動に参加したときの印象が甦って懐かしかった。堕天使で番人(ウォッチャー)という石でできた怪物が登場し,箱船を作るノアたちに加勢するというのは,まあ愛嬌かと思う。ノアの奥さん役のジェニファー・コネリーは,ラッセルクロウとアカデミー賞作品の天才ノーベル賞数学者の物語「ビューティフル・マインド」と同じ顔あわせなのも親しみやすく,スペクタクル映画の割に,ノア一家の人間ドラマを結構ハラハラしながらじっくり見ているうちに2時間が過ぎてしまう面白い映画でした。

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アイスランド,スカフタフェトル国立公園にて

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