身体はよく知っている。小堀鴎一郎,養老孟司対談「死を受け入れること」祥伝社
また,養老先生の対談本を読んだ。小堀先生は養老さんと同い年で,40年間外科医として多くの手術を手がけ,現在は終末医療に携わる方。死をよく知る2人の意見は,大体同じで,ひとりひとり人生があってその最後もすべてひとくくりにしたりするべきではない,という話だ。昨日だかALSの人に依頼されたかで,尊厳死させたと医者が殺人容疑で逮捕されたりしているが,そういった問題にも関わる(安楽死を肯定などしていないが,本人と家族の意思は尊重されるべきだという)話をされている。
面白かったところを書くと,ひとつ前の山極さんでも出てきた,例の手話ができてネコを飼っていたゴリラは,死についても理解していて,「死とは苦痛のない世界だ」と話していたと言われているそうである。動物にも意識はあるし,自分の死期をを悟ったり,森の中の木なども互いにコミュニケーションがあるに違いないとか。ゾウムシでさえ死ぬことを知っていると書いてある。もちろんそれらを人の脳のように客観化している訳ではないが,我々も同じようなしくみで生きているはずで,養老さん曰く本当に死にそうになったら,身体からサインが出るのでそのときに医者にかかればよい,という話だ。検査や投薬の効果など,統計的なもので,ひとりひとりケースバイケースであるはずで,むやみに癌を心配したり,延命治療のガイドラインとか,余命告知とかいう脳化社会が人を幸福にしない,といういつも通りの結論ですが,養老さんが臨床医になっていたら何人殺したか分からない,というのに対して,実際に助けた人もあれば,死んでしまったケースも多い外科医の小堀さんのお話も重いもので,いろいろと参考になる本でした。
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