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2021.06.02

大澤真幸,木村草太=対談「むずかしい天皇制」晶文社刊

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 古代の天文学や曆に興味をもって,昔の人がどの程度,観測技術や知識をもっていたか調べたくなった。古墳などの建造物をつくる土木技術や曆の編纂などは時の政治勢力(豪族や天皇家)の権威を示す象徴でもあったから伝承されたであろうが,文書などの資料には残っていない。したがって,考古的な遺跡や遺物から明らかにするしかないのであるが,その最も重要な遺物である古墳の多くが宮内庁によって歴代天皇陵に治定(神話上の天皇まであって絵空事と事実の区別があいまい)されているために発掘調査ができない,という近代国家にあるまじき科学軽視の実体がある。そして歴史に目をむけてみても,なぜ武士が天下を治めるようになってからも天皇が存続し,その名の下に先の戦争が起き,敗戦後までそんな制度が続けられているのか,という疑問がのしかかっていたところ,出版された本だったのでAmazonで予約して3日前に手に入れて読んでみた。

 社会学者の大澤さんはよくNHKの歴史ものや討論番組などで知っているし,憲法学者の木村さんもテレビやTwitterで辛口の論評をされている。基本的には,大澤さんの解説と論評が主で,法律学的によく分からない点を木村さんに質問して議論が深まっていくという対論が,現代の天皇制の問題,歴史的な経緯,明治憲法と戦後憲法での位置づけという流れで行われている。読み終えて結論を一言で言えば,天皇制は大問題であるが,何故あるのか,どうすれば良いのか結局よく分からない,というものである。もっというと,日本ないし日本人の特質というべき「空気」というものが,天皇制そのものである,という締めくくりになっている。全体の議論がそれに説得力を与えていて最後にむなしい気分にさせられるのだが,たぶん多くの人がそう感じるのではないだろうか。

 問題となるのは,憲法で定められた国民の基本的人権が,天皇および皇室には認められていない,ということである。多くの人は,天皇は別格だと思っているかもしれないが,それなら,天皇にはどういう役割があり(国民の象徴とはなにか),どうやって認められる(世襲のしかたは皇室典範という法律できめられる)などが憲法にはなにも書かれていない。天皇は,国事行為(総理大臣の指名や法律の承認など)だけを行うというが,私的に慰霊やお見舞いの巡幸を行っていることなど,曖昧なままである。細かいことになるが,戦争と軍隊を放棄するいわゆる9条の草案をみて,昭和天皇はこれでは共産勢力に侵略されると心配して,アメリカに沖縄に基地を残すように直接働きかけた,ということが明らかになっているそうだ。このような政治介入をできなくする(平成天皇の退位も一種の異議申し立てであった)ように作られているわけだが,人権の問題も,これからの継嗣の難しさなど多くの問題が残されているのである。

 天皇が,空気を作っているというのは,政治家や軍人がけっこうダメでも,最後は天皇が戦争を終らせたり(814日の御前会議),慰霊の旅や被災地の訪問によって国民の気持ちが癒やされるといったことだが,考えようによっては最近のトランプによる深刻なアメリカの分断のようなものが我が国では,天皇制によって起こらないようになっているという。まことに,消極的な意味として作用しているのが天皇制だという。それではあまりにと,存在意義をあらためて問うと,歴史的に何時なくなっても良かった程度としか考えられないのに,万世一系などと信じがたいものが存続し続けているのは,ひとつには島国で,敵からの侵略にさらされない日本の本気度の薄さに加え,政権を担当するものたちが時々の既得権益で延命することだけを考え,いざとなったら天皇を担いで,錦の御旗を立てて責任を天皇に押しつけてきただけだったという,残念なことながら,これがまさに日本の空気であるとしか言えない気がしてくるのだ。

 私にとっての,天皇家とは何かという答えは見つかりませんでしたが,普段ほとんど考えたことがない法的な問題として天皇制に向き合う良い機会になりましたし,木村草太さん国際的な法学からでも民主主義の考え方が色々あるとか,大澤さんの「第三の審級」といった概念について理解を得られたりするので,一読の価値は大いにあり,お勧めします。

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