物理数学

2016.07.19

科学の発見

 5月に出たワインバーグ(電弱統一理論の完成者)Img_de20f707265ab56d5a6d96cb62d465eによる科学史の本,超弦理論の大栗博司さんの解説付き,というので読まざるをえない本を,ようやく読み終えた。
 昔の人々の考えが現在のレベルと比べて劣っている,というのはいわば当たり前のこと。少なくとも科学は進歩してきたのだから。なので,その劣っていたことを,今の私たちが断罪してもしょうがないでしょ?という遠慮は,科学の世界では無用だ。というのがワインバーグの主張で,なかなか痛快である。~古代ギリシアの科学はポエムだった~,~哲学より科学で多くの貢献をしているが,デカルトの指摘には間違いが多すぎる~,など歯に衣を着せず,間違いがあったからこそ進歩できたみたいな情け容赦がなく,小気味が良い。
 科学史,というと,今までも,それぞれの人物や歴史背景を掘り下げて事情をより詳しくしてくれる本があったが,そんなことより,なぜ,近代科学という革命が起こったかをプトレマイオス,コペルニクス,ケプラー,ガリレオ,ニュートンへの流れを俯瞰し,同じ科学者目線で現代科学に生かす道を示していると思う。天動説のファインチュ-ニング(プトレマイオス)は決して無駄ではなかったなど,これではぜんぜん説明不足ですが,私にはとても参考になる一冊でした。巻末のテクニカルノート(数学的解説)はこの夏休みの宿題にしよう。


2016.04.01

映画「パーティクル・フィーバー」

 IPMUで昨年上映会が行われたドキュメンタリー映画が,NHKのBSで放送された。放送されるという情報を得たのが一昨日だったので,見逃した人も多かっただろう。物理オタクしか見たがらない,ヒッグス粒子発見に至る物理学者たちの奮闘を描いたマニアックな映画である。
 この前の日曜日には,東大安田講堂でIPMUの「梶田教授ノーベル賞受賞記念講演会」があり,これもインターネット中継で見られた。この2月に重力波が人類史上初めて観測されるというニュース,さらに日本のX線観測衛星「ひとみ」が打ち上げられたが,どうも通信が途絶えているとか,物理学や宇宙の謎の解明に関する話題がここ10年くらいラッシュのようになっていると感じる。よく考えてみると,日本人のノーベル物理学賞11個のうち8個が2001年以降のもので,話題に事欠かないのもある意味当然なのかもしれないと思う。
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 何を隠そう,私自身2008年の小林・益川から,この素粒子物理学や宇宙論にはまって(復活して)いる。このことは以前にも書いた。今後,もっとも注目されるのが,ヒッグスの発見以来物理学の標準理論がどこまで正しいかと,超対称性理論(最近出た本)から予言される新たな粒子の発見だろうか。
 簡単にまとめることが出来ないので,関連するURLを再び並べておく。
とね日記
IPMU

2015.11.01

2015カブリ賞受賞者一般講演会

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 10月31日,IPMU(カブリ数物連携宇宙研究機構)主催の一般向け講演会にでかけてきた。アラン・グースというインフレーション宇宙論の提唱者,発見者が来日公演するというから,まあ好きな人にはそれなりの意義があると思う。内容は(もちろん英語の同時通訳あり)ほとんど知っていることであるから,わざわざ聞くまでもないのだが,やはりライブで見る価値は,将来的にあると言える。それは,インフレーション理論の証拠がもうすぐ見つかるもしれないからだ。
 インフレーション,なる言葉も彼が名付けた(我が国の佐藤勝彦さんとほぼ同時にその考えにたどり着いた)。宇宙は究極の「ただ飯食い」ではじまった,とか真空のエネルギーというヤツがそれだ。ビッグバンの前に,インフレーション的な膨張があったとする考えが圧倒的に有利なのだが,その事実を裏付ける直接的な証拠がまだ見つかっていない。2014年の3月にアメリカのBICEP2(バイセップツー)という観測グループがその証拠(原始重力波)を発見したと報じて(その後間違いだったとわかり)にわか騒ぎになった。タモリではないがこれ以上説明すると長くなるので割愛するが,もしその証拠が見つかれば(いくつもの研究グループがその発見にしのぎを削っている),日本の佐藤さんとともにノーベル賞間違いなしなのである。この研究の日本のリーダーである羽澄さんが最近書かれた本(「宇宙背景放射」集英社新書)がとてもタイムリーで分かりやすいです。
Kaburi


2015.09.27

超弦理論への道

 3年ほど前から,平日の早朝,通勤前に開かれる勉強会に参加している。その名も「朝物理」。参加資格や費用などとくになく,とにかく物理や数学に興味があり,一人で取り組むには難しい教科書(本)をみんなで読み合おうという趣旨で,某家電メーカーの研究所に勤めているOさんがネット上で参加者を募り,はじめたものだ。川崎南武線沿線の会社に通う途中ということでMZ駅前の24時間営業のファミレス(ジョナサン)で早朝6:30から1時間あまり,不定期に実施されている(過去の実施内容や今後の予定はこちらのブログを参照)。
 最近,朝○○というのが流行っているとおり,勤め人には土日や夜より余計な予定が入りにくい,また24時間営業のファミレスというのも,通勤前に朝カフェする人にまじって多少騒々しくても(ほとんどまわりは一人客なので実は静か)場所が自由に確保できるというこの設定はリーズナブルだし,すばらしいアイデアだと思う。
 ただし,場所が場所だけに参加できる人は,同じ沿線で通勤する人に限られることになる。とはいうものの,このためにだけに遠くから4時起きで参加される定年をすぎた方や時間の自由な理工系の大学生もいる。私は,MZから徒歩15分に住んでいるので,これは有り難いと,当初(3年前)有名な岩波のファインマン物理学の読書会として毎週金曜に設定されたときから参加している。このような時間的空間的制約があるため毎回参加人数は4,5人か多くて8人くらいである。近頃はいろんなところでサイエンスカフェが行われているが,大勢が申し込んで結局講演会みたいになっているのに比べると,すごく密度が濃いし,同好の士の集まりとして楽しい新しい自由なとりくみだと思っている。
 言うまでもなく物理や数学は科学における基礎学問としてなくてはならない。これを使い回せる人というのは大学の教員以外では理工系のメーカーや企業の研究所で職業としているだろう。しかし,そういう方も実は応用に利用はしていても,本質的な原理を考えたり統合的な理解に至ったり,までは必要なかったりするもので,一般の人も含めて江戸時代の和算ブームみたいに,知りたい,もういちど勉強したいというニーズはかなり大きかったりするのである。と思う。ということで,今年の4月からは「超弦理論への道」と銘打って月に1回最終金曜日に,1冊ずつ物理数学の教科書の勉強会を行っている。あと20回くらい(2年後)で超弦理論が理解できるようになる予定ではあるが,そう簡単ではないと思いつつ,こんな機会に恵まれたことをとてもうれしく思っている。関連するwebサイトは以下を参照されたし。
とね日記
サイエンスカフェなどの予定

2014.12.30

映画「インターステラー」

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 映画「インターステラー」を見てきた。第一印象は,面白かったけれど現時点では理解されにくいだろうな。主人公クーパーは,宇宙SF映画として評価の高い「コンタクト」で宗教家の役を演じたマシュー・マコノヒー(あんまり知らない)である。コンタクトでは長髪だったし,今回は元宇宙飛行士(エンジニア)として登場し,一見ライトスタッフのイエーガー(サムシェパード)の雰囲気なので,ネットで調べてわかった。なんか,この2つの映画(コンタクトとライトスタッフ)を重ねて連想するのは私だけではないと思うような第2印象。また,前回書いた「ノア」同様,野外ロケ地がアイスランドというのは私にシンパシーを覚えさせる。そして,今年のアカデミー賞宇宙もの映画「ゼロ・グラビティー」よりかもっと重力がテーマになっているのは,宇宙物理オタク的傾向からは歓迎したい。超ひも理論は出てこないが,相対論や物理学の謎を解き明かせば人類を救う(言い忘れましたが,テーマは悪化した地球環境から人類がどうやって生き延びるか,その名もラザロ計画)ことが出来るというのは,想像力をかき立てます。

 変な話ですが,脳科学的にヒトの意識とか精神(愛とか倫理といった崇高な面)がどうやって生まれ,また脳のどこにあるのかは解明されていません。愛なんて子孫を絶やさないための本能的な無意識を意識化させたものに過ぎない(という途中にクーパーの台詞あり),とか言ったとしても多くの人は納得しないでしょう。それと霊的な経験も科学的には解明されていませんが,これらを実際に解明されていない物理学の事象に結びつけるのは自然なことではないかと私は思っています。例えば,黄泉の国とか霊界というのが実際に在って,現在の私たちには認識できない異次元(物理的に想定できる)にあるという想像です。これが,インターステラーのもう一つのテーマです。「愛は時空を越える」と予告編にもあります。いろんな伏線が解けていく過程で親子の絆とか愛に(ネタバレですが,親子の年齢の逆転とか)感動してしまうので,つじつまの合わないことなど気にせず見られると思います。
相対論とかワームホールがホンマかいな(あるいは意味不明)という人もいるようですが,大栗さんの話なんかとけっこう整合性のあることを描いていたと思います。例えば,ブラックホールに近づくと事象の地平線,すなわち重力が光の脱出速度を超え,時間が止まるという特異点に到達してしまいますが,それを越えたらどうなるのかというのは,現在の理論では説き明かされていないわけで,こういうのはこの映画のようにもっと物語のしかけとして使われていいと思います。終わり近くの本棚のシーンは,まるで空間や次元や重力が幻想である(大栗博司著ブルーバックス「超弦理論入門」参照)のような映像で,私には納得がいくものです(なんて偉そうに)。最後に,宇宙はやはりパイオニアであるというメッセージが込められていたと思います。約3時間は長いですが,なかなか良い映画でおすすめだと思います。

2013.09.01

時空とは何か

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感銘を受けた大栗先生の「超弦理論入門」の出版に続き,8月31日に朝日カルチャーセンターで,IPMUの村山先生と2人で「時空とは何か」と題した講演があったので,行ってきた。村山先生のお話はすでに4,5回聞いているが,大栗先生をライブで見たのは初めてである。しつこいかもしれないが,昨年から一般向けに新書で「重力とは何か」「弱い力と強い力」(幻冬舎新書)「超弦理論入門」(ブルーバックス)と3冊書かれたことは,おそらく日本の科学ジャーナル史上かなりのインパクトを持っていた出来事と後世に伝えられるはずである。
つまり,大栗先生のアウトリーチ活動が去年から大々的にはじめられたのである。今後,先生のどんな業績が評価されるのか,業界に詳しくなければ分からないが,第一線の研究者が一般向けに語ってくれるというのは今までに無かったことだと思う。たとえていうなら,プロ野球の有名選手が引退して解説者やコーチ監督も辞めて,老境にいたって子どもたちに野球教室を開くのではなく,いきなりイチローがオフに日本で野球教室をやっているようなものだと思う。
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村山先生も,一般向けに話すのは上手だが,それより自分の発見を話したくて話したくてしょうがない人,というのが第一印象である。初めの鼎談と,最後のパネルディスカッションで割合からいうと8割くらいは大栗先生が話していた。M&Mチョコレートに,アインシュタインやアリストテレスの似顔絵をプリントしたオリジナルお菓子を参加者全員に配ったり,最後にサイン会まであるなど,ほんとにサービス精神にあふれていた。
私も,今回の本の最後に付録で説明されている,オイラーの式,1+2+3+4+…+∞=-1/12の真偽をあらためて質問させてもらったりしてとても有意義な時間を過ごせました。

2013.08.26

素粒子論と宇宙の本3

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前にも記したように,現代の素粒子物理学や宇宙論について理解するのが難しいということに対して,第一線の第一人者という研究者から啓蒙書が書かれることはとてもありがたい。ただし,それが一般の読者にとってわかりやすく書かれているかどうかは,従来からはなはだ疑問なのである。研究内容を理解してもらうことと,研究することとは一致しないし,内容がもともと難しいのだから当然とも思う。それに対し,これもすでに紹介したように,その救世主とも言うべき大栗博司先生が,「重力とは何か」「強い力と弱い力」に続いて,今回まさに「大栗先生の超弦理論入門」と題して講談社ブルーバックス(物理学の啓蒙書の老舗)から出してくださった。
今まで読んだ,現代物理学の未解決の解説書にふれると,くりこみ,ゲージ対称性,ヤンミルズ理論,カラビ-ヤウ多様体,余剰次元などの文言が出てくるものの,それぞれ丁寧に解説したもの(カラビ-ヤウ多様体で一冊の本もあるが,余計分からない)を見たことがない。この本では,それぞれ研究史の流れに沿ってこれらの意味をかみ砕いて(分からないけれど)説明がある。すごいと思うのは,理論の中身を説明しても分からないに決まっていても,解決の糸口や意義を研究者のエピソードとともに,時にその困難さなども説明してくれることであろうか,そうだったんだ=「分かった」という面白みで読んでしまう。言ってみれば,分からないのだが,分からないほど難しいということが分かる。これは少なくとも一歩前進である。けっして読者を見放していない解説なのだ。
われわれのこの世界が,9次元のカラビ-ヤウ多様体に折りたたまれていなければならない理由も,分からないなりに説明してくれている。数学は,やはり面白い。空間が,我々の幻想に過ぎないという言い方も何となく納得できて,世界観がまた1つ変えられた快感を味わえました。
ブルーバックスとしても,創刊50周年をむかえ,その啓蒙書として価値を全面的に押し出していて,はじめて表紙タイトルを縦書き(日本語を意識して)にしたそうである(いままでの横書きの罫線がない)。大栗先生じきじきの刊行記念メッセージ動画もどうぞ。

2013.02.17

素粒子論と宇宙の本2

素粒子と宇宙について理解するのは一筋縄ではいかない。超ひも理論の第一人者,大栗さんの「重力とは何か」に続く「強い力と弱い力」は文系の奥さんに読んでもらってOKを得たそうで,なかなか力作だと思う。ついでに何冊か積んであったものも含め一挙に読んでみると,だんだん分かったような気になってきた。インフレーション宇宙論を提唱した佐藤勝彦さんなども,80年代のブルーバックスに比べ,2008年の岩波新書「宇宙論入門」を比べると,格段に易化しているのが分かった。南部さんのブルーバックス「クォーク」は名著だと実感しました。以下はみなお薦めできます。
A
B


C


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F


G


H


2012.07.27

素粒子論と宇宙の本

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世界の究極の成り立ちを知ろうと考えたり,現在明らかになっている宇宙のしくみを学ぼうとするのはヒト(知脳を持った宇宙人のとりあえず代表みたいなもの)だけにゆるされた大きな役割かつ楽しみではないだろうか。もちろん,そんなことに全く興味のない人も多い。また,知ろうとするとそれは高校でやった物理という分野の知識であるというだけで考えたくないという反応を示す場合も少なくない,というのが一般的状況かもしれない。しかし,イヌやネコないしその他の生命に世界とか宇宙とか考えることはできない。だからヒトはえらい,というより,その土台となっている地球環境と進化という観点からはイヌやネコなどにも地球上の生命の先輩という意味で敬意を払う必要がある。なおさら使命感は大きいと私は思うのだが,そんなことますますどうでも良いことと思われるかもしれない。
とにかく昔から,星や宇宙のことに興味をもって,高校時代にはアインシュタインの相対性理論とかハイゼンベルグの不確定性原理とか宇宙は膨張しているとかブラックホールとか,そんなたぐいの啓蒙書をよく読んでいた。それらの中身を実際に理解するには高度な数学を学ばなくてはならない。その専門家にはなれなかったが,大学では理系に進んだから興味は維持していたし,学校で教える上でも,いわば素養である。
それで,話題としてその後,ワインバーグの「宇宙創成はじめの3分間」とか「ホーキング宇宙を語る」といった本があり,インフレーション宇宙論とカミオカンデのニュートリノ,それからしばらく,目をみはる話はなく,もやもやとした時期だったが,2000年を過ぎてからインフレーションの名残や宇宙の加速膨張の発見,2008年の南部,小林,益川のノーベル賞受賞,ダークマター,ダークエネルギーの謎,素粒子論でも超弦理論や超対称性があらためて注目されるようになり,CERNのヒッグス粒子発見のニュースへと俄然脚光を浴びはじめたように思う。4000060430_3

いずれにせよ,私自身も世界の究極の成り立ちを知りたいと思いつつ,そのヒッグス粒子ってなにとか,加速膨張ってその理由がダークエネルギーってどういうこと?とかわけが分からないことだらけである。かといって行きがかり上,知らないで済ませたくはない。2007年にIPMU(東京大学数物連携宇宙研究機構)ができたことは大きく,知りたいという一般の人向けに機構長の村山斉さんが活躍している。数年前に村山さんの講演を聴いて,小林益川理論が宇宙のはじめにあった反物質の謎に関わっていることを知って感動し,以来「宇宙はなぜこんなにうまくできているのか」(集英社インターナショナル)などの啓蒙書に心酔している。一方,この世は時空4次元に加えて余剰次元が6次元あり,カビラ・ヤウ多様体にたたまれているというそのヤウという人の書いた「見えざる宇宙のかたち」(岩波書店)はさっぱり理解しようがない本だった
しかし,最近,村山さんと同年代で超弦理論の研究第一人者であるの大栗博司さんが,本をだした。「素粒子論のランドスケープ」と「重力とは何か」(幻冬舎新書)である。こちらはヒッグスや南部さんの業績に関わることが本当に説得力をもって一般の人向けに書かれていてわかりやすく感動した。結論はこの2冊の本が今年一番のお薦めであるということです。
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2011.10.12

放射線をどう教えるか

戸田先生の霧箱を,学院祭でも見てもらおうと,パイレックスのパイ皿やドライアイスを調達して,理科実験教室の一環として「放射線コーナー」をつくった。
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その他に,文科省の「はかるくん」を借り,ネットからダウンロードした「核図表」を板段ボール2枚に貼り合わせたものを展示した。残念ながら,反応はイマイチだった。
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科学未来館コミュニケーターの林田さんが考案した棒ネットとビー玉による,ウラン235の崩壊モデルもつくったのであるが,ほとんど関心を示す人がおらず,原子核というものを学校教育で教わっていないという,ことの重大性を実感した。
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