思想・哲学・文学

2017.03.03

サピエンス全史(上下)

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 今も,多くの本屋で平積みにされている,全世界ベストセラーということで,分野で言えば「歴史」。正確には歴史評論というか文明論でもあるだろう。先月まで上野の国立科学博物館で「ラスコー展」が開かれていたので,サピエンスといえば,「人類学」のような気がするが,下巻をジュンク堂で探したら「歴史」のコーナーに置かれていることを確認した。実際著者のノア・ハラリという人はヘブライ大学で歴史(中世軍事史など)を教えているとカバーにも書いてある。
 
 上巻の初めの章を読んで,これは養老先生の「唯脳論」と同じことを言っていると思った。ただ,全編を通じて書かれているのは,その唯脳論によって起こった人類の歴史である。養老先生に先見性があるとはいえ,これだけの展開を示せるハラリ氏もすごい。唯脳論でも我々の脳が持つ抽象的思考の説明はあるが,これを端的に“幻想”,あるいは,言語や貨幣,社会,国家などすら脳が描く“虚構”の産物であると説く。すごいと思う。

 内容を順番に列挙すると,認知革命(これがサピエンスの脳),農業革命(神話,差別,文字),貨幣と統一,帝国,宗教,科学革命(無知の発見),資本主義,産業革命,未来の人類といった具合だ。かつてのトインビーや文明の生態史観(梅棹忠夫)といった感じだが,それらを越える論旨が感じられる。例えば,サピエンス(人類)が世界中に広がる間に,その場所の野生動物をどれくらい絶滅に追いやったか,農業による食糧生産が人を幸福にしたか,多神教と一神教の共通性,ヨーロッパの先進性の理由,戦争や厄災の犠牲などを定量化して示すなど,つねに現代の視点から比較して考えさせる独自の工夫が多くある。たとえば,「科学」という人類にとっての無知の発見が,コロンブスにあるという話も,ガリレオとかじゃない点で目から鱗である。そして,我々の業の深さとも言うべき,家畜の犠牲の話は誰もがショックを受けるだろう。最後の方の幸福論(我々は進歩したのか)は,しつこいくらいで,どうでも良いような気がしたが,これが著者のモチベーションかと思うと,信頼すべき文明批評と言うべきか。仏教の教えに造詣が深いこともなんだか著者なりの解答を示しているのかも知れない。とにかくとても参考になった良い本である。

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     国立科学博物館「ラスコー展」で

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2017.01.10

漱石のこと1

 昨年12月,夏目漱石没後100年だったようで,NHKのドラマもあったし,岩波の漱石全集も刊行されたり,岩波新書で,2冊の漱石本が出ていたので,2つとも買った。で,2冊目の赤木昭夫著「漱石のこころ」を読んでたまげた。
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 あの小説「坊っちゃん」は風刺小説で,登場人物は明治の元勲,山県有朋,宰相,西園寺公望や桂太郎をモデル(パロディー)にしているというのだ。

 だれもが,世のインチキ野郎をやっつけてくれる痛快なお話しだと思っているだけじゃない深読み,というか今までだれがこういう指摘をしただろう。漱石の「こころ」を没後100年を契機にもういちど正しく読み解くという重大なメッセージをこの本から,少なくとも私は受けとった。


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